ケリーバッグの歴史
女性が最も憧れるバッグの1つ、エルメスのケリーバッグ。セレブリティの象徴でもあるこのバッグの誕生までの歴史をご紹介します。
①デュック(四輪馬車)とタイガー(従者)~エルメスのロゴの秘密
エルメスのロゴマークは、デュック(四輪馬車)とタイガー(従者)が向かい合って描かれています。エルメスの創業は1837年のこと。創業者のティエリ・エルメスがパリで小さな馬具工房を開いたことが始まりです。当時の主な交通手段は馬車であり、エルメスはオーダーメイドの馬具と鞍を作り、王侯貴族の顧客を持つようになります。
そうした歴史から、エルメスのロゴマークは馬車と従者が描かれているのですが、「何故馬車には誰も乗っていないのか?」と思った方もいるのではないでしょうか。
ロゴは単に他のブランドと差別化のためにあるのではなく、ブランドのコンセプトを象徴していることもあります。エルメスの場合もそうで、デュック(四輪馬車)は“ブランドアイテム”、タイガー(従者)は職人のこと。あえて主人を登場させないのは、「エルメスは最高の品質の馬車を用意しますが、それを御すのはお客様ご自身です」という意味が込められています。
つまり、エルメス自身の商品への並々ならぬ思い入れと自信と、顧客との向き合い方がロゴに表されているのです。
②職人の技術を受け継ぐために、鞍作りからバッグ作りへ
20世紀に入り、自動車が主な交通手段として取って代わり、大幅に馬具市場は縮小しました。このままでは馬具職人が職を無くし、その技術も途絶えてしまう。危機感を覚えたエルメスは、手仕事の技術を活かしてバッグ作りを始めます。これがエルメスのバッグ作りの原点となりました。
創業者ティエリの孫のエミール・モーリス・エルメスは第一次世界大戦の際、アメリカ軍の自動車の幌にファスナーが装着されているのを見て、それをすぐに自社製品に採用します。馬具が役割を終えても、エルメスは常に最先端を走り続ける。そんなメッセージを込めて、当時の自動車会社の名前に因んで、ファスナー付きのバッグ「ブガッティ」を1923年に発表します。
現在ではファスナーはごく当たり前のものですが、当時は非常に画期的なもので、“エルメス・ファスナー”と呼ばれ、その実用性が高く評価されました。
③モナコ王室に即電話!ケリーバッグの誕生
ケリーバッグの“ケリー”がハリウッドのスターであり、モナコ王妃でもあったグレース・ケリーに因んだものであることはよく知られています。世界中から注目を集めるセレブである彼女が妊娠中のお腹をこのバッグで隠した写真がLIFE誌に掲載され、それを見たエルメス4代目社長ロベール・デュマはモナコ王室に即電話。そして、このバッグを「ケリー」と名付ける許可を取り付けます。
ハリウッド女優からプリンセスへと転身したケリーは、憧れの的であり、理想の妻、母です。このイメージ戦略は大成功し、ケリーバッグは現在でも「バーキン」と並んで代表的なブランドとして世界中の女性に愛されています。
優雅で型崩れにしくいケリーバッグ
ケリーバッグが誕生したのは1935年。馬具製作で培った伝統の技術を生かしながら、女性も持ちやすいコンパクトなバッグというコンセプトで作られたのがケリーバッグです。
がっちりとした台形のフォルムはバーキンと同じですが、ハンドルが1本のみで中身が見えないようにフラップがついています。型崩れしにくく、4つの底鋲がついているので、自立して置くことも可能。フォーマルな服装に似合う優雅さを備えています。
ケリーバッグには外縫い、内縫い、2種類の縫製があるのも大きな特徴。外縫いは革を伸ばした状態で縫製するもので、内縫いはバッグの生地に縫い目を織り込んで縫製しています。外縫いは美しいステッチが模様のように見え、外縫いは角が丸くなり柔らかい印象になります。
ケリーバッグの素材
ケリーバッグの素材は30種類以上といわれています。ここでは、代表的な素材をご紹介します。
- ・トリヨンクレマンス
出典:ビープライス エルメス素材一覧|手触りから知るエルメス素材のバリエーション
型押しした雄牛の革で、エルメスの定番素材のひとつ。マットな印象で手触りは柔らかいです。発色が美しいため、様々なカラーの商品が作られています。
- ・トゴ
出典:ビープライス エルメス素材一覧|手触りから知るエルメス素材のバリエーション
型押しした雄仔牛の革で、トリヨンクレマンスに並んで定番素材のひとつ。細かいシワ模様に自然な風合いが特徴で、張りがあります。年月が経つごとに色合いが変わります。
・ヴォー・エプソン
出典:ビープライス エルメス素材一覧|手触りから知るエルメス素材のバリエーション
型押しした雄の仔牛革で、適度な張りがあり、型崩れしにくい素材です。ケリーバッグの美しいフォルムを楽しめます。光沢があって軽量で扱いやすいのも大きな特徴です。
・ボックスカーフ
出典:ビープライス エルメス素材一覧|手触りから知るエルメス素材のバリエーション
ヨーロッパのアルプス山脈で育った仔牛革を型押しして作った素材。表面にガラス加工が施され、光沢があり、代表的なフォーマル素材です。
・ヴォースイフト
出典:ビープライス エルメス素材一覧|手触りから知るエルメス素材のバリエーション
型押しした雄の仔牛で、なめらかな質感と弾力性のある、使い込むほどなじむ素材です。表面はマットな印象で、発色も優れています。
ケリーバッグのサイズと価格
ケリーバッグのメジャーなサイズは28㎝、32㎝のサイズです。価格は素材によっても異なるため、あくまで一例としてご参照ください。
- ・19センチ(ミニケリー2)
(W19cm×H11.5cm×D5.5cm)
価格:500万円前後(素材:エプソン)
入手困難なレア商品であるミニケリー2。その名の通り、かなり小さく、ハンカチと小さな財布とコンパクトを入れるのがやっとのサイズです。
・28センチ
(W28cm×H22cm×D10cm)
専門店参考価格:200万円前後(素材:トゴ)
とっても使いやすい定番サイズです。化粧ポーチやお財布、手帳、出かけた時に持っていきたいものは問題なく入り、それでいて大きすぎないからフォーマルにも便利です。
・32センチ
(W32cm×H23cm×D10.5cm)
専門店参考価格:200万円前後(素材:トゴ)
グレース・ケリーが愛用していたのがこのサイズ!通勤の際、書類を入れるには小さいですが、お出かけの際、荷物が多い方にはとても便利です。
・35サイズ
(W35×H25×D15)
専門店参考価格:200万円前後(素材:トゴ)
A4書類が入る、通勤に便利なサイズです。取り出しやすく、バッグの中身をしっかり守ってくれるケリーバッグの機能性が存分に発揮されます。
今回取り上げたサイズは、日本でも比較的手に入りやすいものです。他にも、すでに廃盤になったサイズがあり、素材についてはクロコダイルのものは軽々と1000万円以上の値がつきます。
ケリーバッグのメンテナンス
ケリーバッグはエルメスのブティックとカスタマーサポートで修理を請け負っています。正規店で購入したものならもちろん、そのことが証明できない場合でも、本物のエルメス商品であれば修理は可能です。
正規店の場合、戻ってくるまで費用やどのような状態になっているか分かりませんが、お金はかかってもとてもきれいになることと、安心感が大きな利点です。しかし、製造年月日がかなり古いものや、色抜けや傷みがかなりある場合、断られてしまうことも。そうした場合は、一般の修理店に依頼する必要があります。
ケリーバッグは、数あるブランドバッグの中でも最高峰の高価なバッグです。一般の修理店に依頼する際も、細心の注意を払う必要があります。ケリーバッグを修理するために、修理店を選ぶ際のポイントをご紹介します。
・リカラー(色補正)の技術が優れている
ケリーバッグの素材には発色の美しいものが多く、美しい色味に一目惚れして購入する方も多いこと思います。しかし、特に底かどは擦れてしまい、色が落ちてしまうことが多々あります。優れたリカラーの技術を持つ修理店を選ぶと、かつての輝きを取り戻せます。
・高度な金属のメッキ加工技術がある
年月が経つと金具類はメッキが剥がれてしまいます。ケリーバッグの金具部分は小さいですが、目につく箇所なので、それだけでも古びた感じがしてしまいます。金属のメッキ加工が可能な修理店を選びましょう。
・持ち手部分を新しくできる
ハンドバッグはどうしても持ち手部分に負担がかかるため、傷んでしまうことも多いですが、損傷が大きい場合は正規店のリカラーでもカバーできないことがあります。そうした場合は、ハンドル部分の革を新しい革に付け替える処理ができる修理店がおすすめです。
ケリーバッグの“主人”としてどう乗りこなしていくか。持つ人のバッグとの向き合い方が試されます。時には修理店の力を借りながら、長く親しくお付き合いをしたいものですね。